カレーの味の違いを意識し始めたのは、社会人になってからだと思います。大学生の時は、うまいラーメンを求めて、わざわざ電車に乗って食べに行くことはあっても、カレーに同じだけの思い入れをした記憶はありません。

カレーとは、そもそもうまい食べ物であって、どれを食べても満足でした。家のカレー、給食のカレー、学食のカレー、チェーン店のカレー、そば屋のカレー、とんかつやのカレーとどれもうまい。「カレーにハズレ無し」とすら思っていました。

そんなぼくが、カレーの深淵さに気づくきっかけを与えてくれたのが、このエチオピアのカレーです。
それまでのぼくは、カレーはカレー料理とぼんやりと考えていたのだと思います。乱暴にいうと、カレーはカレー粉から生まれる料理くらいに思っていたのだと思います。

ところが、エチオピアの鮮烈なスパイスの香りのするカレーを食べたときに、あ、カレーってスパイス料理なんだ……ということに気づきました。

それから、ぼくのカレーに対する目は変わりました。
十把一絡げだったカレーが途端に、千差万別な非常にクリエイティブな食べ物に変化したのです。

そういう意味で、エチオピアはぼくにとって、カレーの豊かな魅力に気づかせてくれた恩人と言っても過言ではありません。

今となっては、エチオピアはもはや老舗となって、レトルトなんかも出しちゃっていますし、御茶ノ水、神保町界隈の新興のカレーショップの方が勢いがあったりするのかもしれませんが、ぼくにとってのカレーの恩人であることは変わりません。恐らくぼくだけでなく、多くの日本人にとってカレーの夜明けとなったお店だと思うんですよね。