金目鯛とキンキがまったく別の魚と知ったのはいつのことだったでしょうか?

どちらも赤い身体に大きな目。白い身には脂がのって、煮て良し、焼いて良しの万能選手。どっちもウマい。若い頃のぼくは、金目鯛とキンキをまったく同じ魚だと思っていました。方言の違いくらいに思っていました。金目鯛というよりは、キンキと言った方が通なような気もして、金目鯛って書いてあるのにあえてキンキと呼んでみたりもしていました(恥ずかしい)。

そんなぼくも年を重ね、ヒラメとカレイが別の魚であるように、金目鯛とキンキもまた別の魚であるということを知りました。金目鯛はキンメダイ目キンメダイ科の魚で、キンキはカサゴ目フサカサゴ科の魚です。キンキってカサゴの仲間なんですね。言われてみれば口元がカサゴっぽいなと気づきます。

思えば、この種目の違いを意識した時にぼくは大人になったのだと思います。

魚を区別するように、人も区別するようになりました。あの人はどこの会社の人なのか?あの人はどこの部署に所属している人なのか?あの人はだれの仲間なのか?あの人は……云々。
その人本人の人柄や能力だけでなく、所属するグループで人を見るようになるのです。

子供のころには、友達の家柄や家庭環境なんか気にせずに、その友達の人柄だけを見て、つきあいをしていたはずなのに、社会にでるとそれがだんだんとできなくなってきます。
そして金目鯛とキンキを区別する能力を身に着けたころには、何か大切なものを失ってしまったことに気づくのです。そして、こう思います。

――生きるというのは、失い続けることだ。

と。

それにしても金目鯛の煮つけがとてもおいしかったです。食べ終わってしまうのが口惜しく、やっぱりこうして失い続けていくのか……とここでも悲しい気持ちになりました。