ボブ・ディランのノーベル文学賞の受賞には物議がありました。ロックミュージックを文学と認めるか?という議論がいろいろなところで巻き起こりました。そもそも文学とはその存在そのものが深淵であるが故に言葉で定義できないものなのかもしれません。だから、このような議論に答えは出ることはありませんでした。このディラン騒動はただ文学という宇宙の果てしなさだけが際立つ出来事でもありました。

この騒動の最中にこれと同じような感覚を覚えていたことが、ぼくにはありました。
「カレー」です。「カレー」とは何ぞや?その問いに答えるボキャブラリーを人類はまだ持ち合わせていないのかもしれません。
ボブ・ディランの名前がメディアで連呼されるたびに、ずーっと食べたくて食べたくてしようがなかったカレーがありました。御茶ノ水のディランのカレーです。

冒頭の写真はチキンカレーとキーマカレーのハーフ&ハーフです。真ん中にゴハンのダムを築き、両サイドにそれぞれのカレーが盛られます。ダムの上下にはキャベツとニンジンの付け合せが配され、さながら魔法陣のようでもあります。本当に魔法でもかかったかのように美味しいのは言うまでもありません。
以前にも書きましたがディランのカレーはボブ・ディランのように声高です。スパイスが鮮烈に自己主張し、食材を立体的に際立たせます。チキンもキーマもまったく違う美味しさです。それぞれにスパイスの組み立てを変えながら、それぞれのキャラを最大限に活かすカレーを構築していくわけですからお見事の一言です。
まったく違う味の2つのカレー。でもそれは間違いなくディランのカレーなのです。

そんなことを考えながら、今宵もカレーの宇宙の深淵さを、果てしなさを、思う存分味わうのでありました。ごちそうさまでした。