ぼくらアラフォー世代で「貴」と言えばもちろん貴乃花です。

そして日本酒界で、横綱級の存在感を示しているのは「貴」です。雑誌の地酒特集でもあろうものなら、必ずその名が出てきます。ドメーヌやテロワールといったワインでお馴染みの概念を日本酒づくりにも持ち込んでいます。ドメーヌとは畑を所有し自社栽培し瓶詰、出荷まで行う生産者のことです。テロワールとは土地の特徴のことで土壌の性質や日当たりや気象条件を含みます。「貴」を醸す山本家酒蔵では、酒米を自社栽培し、その土地の水を活かした酒造りをしています。
杜氏で蔵の代表でもある永山貴博氏は、雑誌等のメディアによく登場しますが、そのいかつい顔でもお馴染みです。それにしても、あのいかつい顔から想像もできないほど繊細な酒を醸します。

この「貴 純米吟醸山田錦50」は、とてもキレイなお酒です。上品な吟醸香がふわっと広がったかと思うと、米のうまみが口いっぱいに広がり、ほのかな甘みを残しつつ後味で酸味が引き締める。

力強さよりも飲み口の繊細さが際立ちます。それは、力強い横綱貴乃花の取り口というよりは、圧倒的な技術が持ち味の横綱若乃花の取り口に近いと思います。大横綱貴乃花よりも影の薄い若乃花ではありますが、全盛期の彼はまさに天才的な輝きを見せていました。ぼくが現役時代を知る日本人の天才力士は、若乃花と栃東の二人だけです。

「貴」という名前ながら、「若」を彷彿させる美味しいお酒でした。