鮨さいとうのづけ

鮨屋とは、鮨の味だけを楽しむのものではなく、その時間と空間を楽しむ総合芸術といっていいのでないかと思っています。そう、茶道に近い。お茶を飲むだけでなく、その所作や精神性、さまざまな道具や床のしつらえ、建築、庭に発露する美意識、それらすべてを包含するのが茶の道です。
そう考えると、さいとうさんの目指すところはまさに「鮨道」なのかもしれないと思うわけです。

冒頭の写真は大間の鮪。この姿の美しさにまず見とれます。口の中でふんわりほどけるように握ってあるので、つけ台に置かれたときににぎりが「沈む」とか「踊る」とか表現する人もいます。
この赤身は適度に熟成され、隠し包丁やヅケの下仕事がなされています。鮨屋の仕事は下仕事の方が長いとよく言われます。我々が目にする「にぎり」の部分は駅伝でいうところのアンカーのゴールシーンだけでしかないのです。ゴール前にたどり着くまでには途方もない仕事のタスキリレーがあるのです。そんなおいしいゴールだけを、さらにはこんなに美しいものをパクりとやるのは、背徳感すらありますが、幸せの極みでもあることは言うまでもありません。

そして、鮨さいとうでは、すし以外のことでもはっとすることが多いです。道具が美しい。煮切りやつめの器として抹茶椀を使っていますが、志野焼や乾山風の茶碗などとにかくかっこいいのです。包丁も日本刀みたいだぜよ。魚をさばくさいとうさんは、サムライのようにも見えます。

つけ台にはスポットライトがあたってるかのような照明。まさに鮨が主役の舞台です。
氷式の冷蔵庫の扉の存在感が空間に緊張感をもたらします。玄関の壁は、左官、久住有生によるものだそうです。花は季節感を否応なしに感じさせます。
つっこみだしたらきりがないのですが、鮨以外のものに対しても、もてなしのレベルがはんぱないのです。

鮨さいとうの鮨は、総合芸術。鮨道なのです。

 

メモ:
白魚
たことアワビ
たらの白子
のどぐろ焼き物
やりいかの煮つけ
毛蟹

-以下握り
ひらめ
金目鯛
こはだ
づけ(大間)
中トロ
大トロ
墨いか
車えび
ばふんうにの軍艦
あなご(塩・つめ)
かんぴょう

お椀

-日本酒
日高見 純米
黒龍 大吟醸