オリンピック選手の「楽しむ」という発言が、ソチ五輪の時に話題になりましたね。税金投入してるんだから、楽しんでる場合じゃねえだろ的な言説だったと思います。最初にそれを言った張本人の人柄もあってか、結局はお前がそんなこと言うな的な世論の流れになった気もします。でも、今だから言いますが、へえ、そういう見方もあるんだと随分感心したのも事実です。当時のぼくときたらオリンピック選手にお金払ってるって意識なんてゼロでしたもの。
最近も都知事が税金でファーストクラスだ、スウィートルームだと大問題になりましたけど、オリンピック選手に対して楽しんでる場合じゃないだろという発言は、本質的には一緒ですよね。

で、サッカー予選第二戦試合終了後のインタビューでのことです。我らがFC東京の星、ショーヤ・ナカジマが「次の試合を楽しみたい」と発言していました。あ、言っちゃったと思いましたね。そう思った人も多いことでしょう。

でもね、ことサッカーに関しては、この発言はやはりネガティブなものではないのですよ。

小説家 保坂和志による一流のサッカー選手に対する洞察を紹介しましょう。彼曰く、テクニックだけで一流プレイヤーを論じることはできないと。ブラジルやヨーロッパの国々には、サッカーを見たり、プレーすることの歓びが魂として根付いていて、そういうものが国民一人ひとりの心の中にあるからこそ優れたプレイヤーが生まれてくると言っています。
そういう意味でいうと、ショーヤ・ナカジマは世界の一流プレイヤーが持つべき魂を当然のように持っているということなのです。そして、今このリオにおいて、そのサッカーの魂が自ら叫ばずにはいられないほどに熱く熱く燃えたぎっているということなのです。

そんな彼が「楽しみたい」と言うのあれば、「ぼくもまーぜて」と言わずにはいられません。

 

ということで、スウェーデン戦です。勝っても、同時間に裏でやっているコロンビアVSナイジェリア戦の結果次第という難しい試合でありましたが、見事に1-0の勝利をもぎ取りました。

残念ながら、コロンビアがナイジェリアを下し、日本は予選リーグ敗退となりました。でも、スウェーデンとの最終戦でみせた手倉森ジャパンのサッカーは、素晴らしいものでした。ヨーロッパ予選を1位で通過したスウェーデンを相手にまったく引くことなく、圧倒したといってもいいくらいの出来だったと思います。

このチームは、やっぱり4-4-2 なんですね。選手の距離感が抜群で守備から攻撃のトランジションが見事としかいいようがありません。初戦ナイジェリア戦で不慣れな4-3-3にすることで攻守両面においてチグハグな感じになってしまったことが今さらながらに悔やまれますね。

それにしても、我らがFC東京の星、ショーヤ・ナカジマこと中島翔哉です。あの小さい体のどこにあれほどのパワーがあるのか?と世界を驚かせたに違いありません。彼のスイッチからの連動した守備で何度良い形で相手ボールを奪取したことか?そして、左サイドで何度基点となり好機を演出したことか?彼がサイドで基点となることで、SBのオーバーラップやボランチが飛び出す時間ができる。またDFラインも高い位置まで押し上げることができる。厚い攻撃とコンパクトでタイトな守備はショーヤ・ナカジマを基点に生まれていたのです。この試合で決定的な仕事はできませんでしたが、ゲーム全体に及ぼした影響力と存在感はぴか一でしたね。ここぞの場面でシュートでなくパスを選択したあたりはご愛嬌でしょう。

そんな躍動する日本の10番と手倉森ジャパンの試合を見ながら、“サッカーの歓び”というものが確かにそこにあるという感触を得ることができました。サッカー観戦においても、選手同様にその感触を得ることこそサッカーファンにとっての至上の幸福と言えるのではないでしょうか。

我が愛しのリトル・マルディーニこと室屋成も初戦のショッキングなゲームから見事に立ち直ってくれました。右サイドを完全に制圧していましたね。

日本を背負った二人には、お次は東京を背負っていただきますよ。
“サッカーの歓び”ってやつを引き続きご相伴させていただきます。