最近のぼくときたら「お好み」づいています。いや、鮨の注文方法の話です。

お鮨屋さんって、一定レベル以上のところだと「お任せ」のお店が多いじゃないですか?
そんな中、先日お邪魔した神保町「鶴八」さんのように「お好み」オンリーを信条とする名店も少なからずあります。

そうここ下北沢の小笹寿しもそんな鮨屋の一つです。

小笹といえば、銀座、新橋、神泉、六本木とのれん分けしたお店がいくつかあります。いずれも小笹の名にふさわしい名店という話は聞いています。なかでもこの下北沢で特筆すべきはその地の利でしょう。同じ小笹とはいえ銀座と比べるとそのコスパは言うまでもありませんが、肩ひじはらずに楽しめますね。もちろん名店にふさわしい凛とした緊張感は健在ですが、銀座の鮨となるとやっぱりちょっと必要以上にピリピリしますもの。

小笹の代名詞と言えば、キジ焼きです。あなごを煮るのでなく、香ばしく焼き上げます。あなごを生地のまま焼くことと鳥の雉にかけて、キジ焼きという名になったそうです。煮アナゴをあぶるのとまったく違った食感と香ばしさが楽しめます。
これをつまみにキューっとやると、もうキューってなりますね。

さて、今日は「お好み」発注システムの話に戻しましょう。

これを好きなものを好きなだけ。自分の欲望にまかせて発注するだけの自分本位システムと思ったら大間違いです。

このシステムは大将との間合いをはかることはもちろん、他の客との間合いをはかる必要もありますし、常にまわりの動きに気を配らないといけません。鮨屋の空間を劇場とするならば、大将だけでなく客も演者としてこの舞台に立っているという感覚に近いのです。
演者として舞台に立つ以上、その舞台を壊さないように責任も生まれます。

ひとりがきじ焼を注文したら、じゃあこっちも、ほんじゃこっちもとまとめて発注すると焼き場が有効活用できます。しんこの季節に、いくらうまいからと言って、ひとりで3貫も4貫も頼むような無粋なこともいけません。他のお客さんの分まできちんと行きわたるようにとっておかないといけないのです。しんこは下仕事が大変だし、1貫で3匹も4匹も使うのですから。

ただ、だからといってオペレーションばかりを気をつかって、他のお客と同じものばっかりもご法度です。ストーカーみたいで気持ち悪いですから。
今日相席した初老の紳士は、すばらしかった。
ぼくが、アナゴをお願いすると、そこにかぶせてこっちもアナゴ!ツメでなくて塩で!ときたもんです。
大将のオペレーションを考えつつ、ぼくに対してもストーキングじゃないよとさりげなくアピール。

やるもんだ。

そんなこんなのお好み鮨。ひと舞台を終え、ここちよい疲労感とともに、〆のかんぴょう巻と卵のつまみを食べながら、はたと気づきます。
お任せだろうと、お好みだろうと、食べてるものはほとんど一緒じゃないか??

白身→イカ→光物→赤味→トロ→えび→貝→うに→あなご→かんぴょう→たまご

にぎりはおおよそこんな流れです。
予定調和と言っていいかもしれません。

お任せだろうが、お好みだろうが、鮨は予定調和のエンターテイメント。
今日はそんな鮨の新たな魅力に気づくのでありました。

 

 

メモ:
塩蒸し (適度にやわらかく香りギュっと)
キジ焼き (醤油ダレが香ばしい)

以下握り
タイ (皮目が特徴的)
アオリイカ(歯切れよい系)
アジ (薬味〇)
シマアジ(歯ごたえ&脂)
シンコ(3枚)
コハダ(シンコとのグラデ楽しい)
赤味
トロ
車えび(ゆで上げ)
ウニ
アナゴ(ツメ)
かんぴょう

たまご