和カフェと言われるとちょっとカジュアルな響きがありませんか?言葉を濁さないで言いましょう。なんか偽物な響きがありませんか?

西洋のカフェに、日本文化の上っ面だけをなぞって「和」を足しました的な浅はかな感じがしますよね。

ただこの「茶酒 金田中」は、かなり本気モードです。
なにしろ日本を代表する老舗料亭と日本を代表する現代芸術家がコラボして作った和カフェですから。

金田中といえば、泣く子も黙る新橋の老舗料亭。政財界の魑魅魍魎たちが芸者をはべらせながらうまい酒とうまい料理を堪能しながら日本の行く末を企てる社交場(←行ったことないので勝手なイメージです)。

そして内装を手掛けたのは、杉本博司。写真表現から空間表現まで長年にわたり日本の現代アート界を牽引する御大。60代後半になると思いますが、一切衰えることなく今もなおクリエーションをし続けるまさに現代アート界の怪物中の怪物。

魑魅魍魎たちの社交場の胴元と、本物の怪物が手を組んだわけですから、まさに「恐るべき和カフェ」とはこのことでしょう。

窓に向かって反対側の壁際の一段高くなったところに、壁を背にして座る白木の一枚板のカウンター席があります。その白木のカウンター席と窓との間には、向かいで座れるこれまた白木の一枚板のテーブル席があります。この一枚板x2のテーブルは圧巻なわけですが、特等席はどこか?と言われると、やっぱり一段高いところにある壁際のカウンター席です。この席から一望する庭がまさに杉本博司の宇宙そのものだからです。

苔庭にソリッドな積み上げられた石と下界を遮る垣根。水平垂直とオブジェクトの重なりに、太古からつながり未来へと続くこの世界を、この宇宙を感じずにはいられません。

それにしても、なんという緊張感よ。まったく落ち着きません。甘味処であるはずなのに、まったくリラックスできる空間ではありません。客は、否応なしに杉本博司との真剣勝負へと対峙せねばならないのです。客にも客なりの覚悟が必要です。さもなくば斬って捨てられても文句を言えない。そんな緊張感がここにはあるのです。

この日食べたのは、レモン餡蜜。白あんと蜜にレモンの風味。夏にもってこいの爽やかな味わいです。緊張感を和らげてくれるのにもちょうどよい、ほっとする甘味なのでありました。

 

エントランスにも杉本博司の作品が。

エントランスにも杉本博司の作品が。