新年一発目の映画は、小津安二郎の「お早よう」です。

新年の幕開けにふさわしい作品です。
「東京物語」がロンドン映画祭でサザーランド賞を受賞し、映画人として初めて小津安二郎が紫綬褒章も受章したのが1968年。その翌年の作品がこの「お早よう」です。まさに小津自身、脂の乗り切った時の作品であり、カラー映画としては2作品目という、映画監督としての可能性を模索する絶好のタイミングで生まれた作品です。

舞台は、郊外の集合住宅地。各家同士が長屋のように隣接しています。そこで織りなす人間ドラマが坦々と綴られていきます。近所づきあいのしがらみだったり、テレビを欲しがる子供だったり、ちょっとした恋だったりが、丁寧に描かれていきます。あっと驚く展開があるわけではありません。そこに描かれるのは、ごく平凡な家族の暮らしです。

それにしても50年近くも前の作品にも関わらず、まったく古い感じがしません。映り込む風景やインテリアはもちろん50年前のそれなのですが、そこで描かれる物語は現代に照らしても、まさに「あるある」だからだと思います。家族というものの普遍性が確かにそこに描かれているのです。

物語もさることながら、画作りが尋常じゃない完成度なのも、まったく古びて見えない要因であるようにも思います。「映画」という言葉が、「画」を「映す」という意味であることをいまさらながらに思い出させてくれます。ひとつひとつの画面の構成が、本当にカッコいい。その構成美は、バウハウスに通じるものを感じます。そう、小津映画は実にデザインコンシャスなのです。

家族を中心にした物語ばかりがフォーカスされがちな小津作品ですが、実は画作りがはんぱないということももう少し知られても良いのではないかと思ったりもします。

とはいえ五十年も前の作品なので、なかなか観る機会がないのも事実です。
ぼくがこの作品を観ようと思ったのは、先日行った知人の結婚式のスピーチでこの作品が触れられていたからです。そんな理由でもないとこうした古い映画をさて観てみるかとはなかなかなりませんよね。
そのスピーチは、新郎新婦にむけて、家族の温かさがここにある、ぜひそんな家庭を築いてほしい的なお話しでした。

たしかにその通りだし、それに加えてこれから家族を「デザイン」していく彼らにとって、うってつけの作品だなぁと思ったりもするのでありました。