唐津を代表する陶芸家、西岡小十の朝鮮唐津の茶碗です。

西岡小十は、古唐津焼の名人で第一人者でありながら、公募展などには一切応募することなく自己顕示欲に溺れず作品をただただ作り続けました。自ら望めば手に入れられたであろう、あらゆる肩書きを固辞し続けたました。そんな彼を人々は畏敬の念を込めて、「無冠の帝王」と呼びます。

西岡小十は、元々、古唐津窯の発掘調査を行っていたそうです。遺跡から発見される陶片の美しさに心奪われ、自ら古唐津を再現すべく作陶に励むようになったそうです。陶芸界の重鎮である小山富士夫を師と仰ぎ親交を深め、古唐津復興に邁進します。試行錯誤を重ね絵斑唐津(えまだらからつ)や梅花皮唐津(かいらぎからつ)といった当時の唐津では廃れてしまった技術を見事に復元します。

西岡小十の作品は、王道とも言える風格と奥深い美しさを宿しています。古唐津に魅せられた氏が、現代にその美しさを見事に再現したのです。人類が歴史の中に埋もれさせてしまった美しいものを見つけて掘り起こし、我々現代人の生活の中に再び届けてくれたのです。

西岡小十の作品を大切に後世に引き継ぐことはもちろんですが、作品だけでなくものづくりに対する精神性のようなものも語り継ぐ必要があるのでないかと、そんなことを思ったりします。

ちなみに、銀座の和食屋さん「小十」の名前が西岡小十からきているのは有名な話です。ぼくが思い悩むまでもなく、すでにさまざまな世界へ西岡小十の意志は引き継がれているのかもしれません。