トーマス・ルフ展@東京国立近代美術館

「写真とはなんぞや?」
という命題を突きつけれる写真展です。そこに明確な答えがあるわけではありません。答えは受け手のこちらに委ねられています。答えはさておき、問いを提起しうるという意味において、写真というメディアが芸術になりえているのだと思います。

冒頭の作品は、「Portraits」というシリーズです。知人を写したポートレイトです。普通のサイズのこの写真を別の共通の知人に見せると、「この人を知っている」というようにそれを「人」として認識します。でも、大きく引き伸ばしてその写真を見せると、それを「人」ではなく「写真作品」として認識するといいます。そこには芸術作品としての意味性のようなものが観る者の中に生まれるのです。

ルフ自身が撮影したものではない写真が多々あることも実に象徴的です。
「Jpeg」というシリーズは、ネット上で拾ってきた写真を大きく引き伸ばした作品です。ネット上にあふれている無数のイメージからルフがチョイスした画像を引き延ばして作品にしています。元々はWeb用の画像ですから、解像度はとても低いです。原寸のサイズで印刷してもジャギるであろうそれらをさらにドデカく引き伸ばすものですから、ひどく画質が悪くブロックノイズが見て取れます。でもそれが逆に美しくも見えてきます。

「ma.r.s.」というシリーズでは、NASAの火星探索の写真を加工して作品にしています。遥か遠くの宇宙から送られてくるデジタルデータを加工し火星の原風景を写真の上で再構成してみせます。

その他にも多くの作品が、ルフが撮影した写真ではありません。でも立派に彼の作品としてこうして美術館に展示されています。既成の工業製品である便器をそのまま芸術作品としたマルセル・デュシャンにも通じますが、現代アートとは、モノではなくアイデアであるということを改めて再認識させてくれます。

――写真とはなんぞや?

ぼくは入れ物のようなものと捉えています。中に入るものは、情報かもしれないし、感情かもしれないし、意見かもしれません。その入れ物を使う人によって、それは記録するためのメディアにもなるし、芸術にもなります。
他の人が撮影した写真であってもその中に自分のアイデアを入れ込んで運んで届ける。それがトーマス・ルフという芸術家なのではないかと、そんなことを思っています。