半年ぶりの鮨さいとうです。なんというか、鮨さいとうのことばかりを考えての半年間だったような気がします。それは、スポーツ選手が次のオリンピックまでの四年間をストイックに過ごす時間と似ていると思います。

ただひたすら研鑽し、ライバルとしのぎを削る。それは、晴れの舞台に立ちたいがために他なりません。嫌なことも辛いこともありました。正直、死にたくなるようなこともありました(←これは大袈裟)。でも、半年後の鮨さいとうという至福の舞台があるからこそ耐えられる。そんな思いでこの半年を過ごしてきました。

さて、そんな待ちに待った鮨さいとうワールドの幕開けです。いくらの出汁づけから、お馴染みの蒸しアワビ、煮ダコにはじまり、カツオのたたき、あなごの白焼き、新イカのげそ焼、海水ウニのつまみと怒涛のつまみ攻撃に、酒がぐいぐい進みます。

この時点ですでにサンドバック状態ではありますが、ここから怒涛のにぎり攻撃が始まります。

一発目に超ド級のメガトンパンチが飛んできます。

――鯛。
名刺代わりという言葉がありますが、まさに鮨さいとうの握りのそれがこの鯛です。鯛が何故に日本人にもてはやされるのか?その答えのすべてがこの鮨さいとうのにぎりに凝縮されているのです。
魚の熟成、握りの技術、シャリの味、温度、煮きりの風味、鮨の宇宙の秘密がすべてそこにあるのです。

――アマダイ
脂が多く水っぽい部類のアマダイですが、こぶ締めにしてぐっと旨みを凝縮し、大葉のアクセントでまとめます。
これはう、うまい!と柏手がでる他ではなかなかお目にかかれない逸品。

――アジ
これも鮨さいとうさんの代名詞とも言うべき味。肉厚で脂ののったアジにあさつきの薬味がオン!口にいれた瞬間に爆発するかのようなうまさがさく裂します。毎度ながら爆弾を口の中にいれるような気分です。

――マグロ三兄弟
赤身のヅケ、中トロ、大トロと三連打。この世のものとは思えぬ至福のひととき。この時期のマグロはいまいちだよねぇ……とは言わせねえよ!とばかりの旨みと香り。はぁ、はぁ、はぁ、息苦しくなります。

――コハダ
締めすぎず、かと言って生なわけでもない、いわゆる絶妙な締め具合。「絶妙」という言葉を辞書に載せる時の例文に使いたいくらいの絶妙なコハダです。

――ヤリイカ
イカの旨み、歯ごたえ、香り、三位一体となった旨さ。塩とユズの香りがイカのうまさの輪郭を際立たせます。

――車えび
お見事としか言いようのないこの造形。赤と白のストライプが目にまぶしい。茹で上げの甘味と肝のコクの深みがこの世界の深淵さを感じさせます。

――アナゴ兄弟
アナゴは九州から。口に入れた瞬間にホロホロと溶けていきます。塩とタレの2種類で楽しめます。このアナゴが出るころはコースのもう終盤。その溶けるような身の儚さも手伝って、切なくて切なくてたまりません。

――中落ち巻
今日の締めは中落ちの巻物。いつものかんぴょう巻でなく、たまにはこんな変化球もサプライズで楽しいですね。

――タマゴ焼き
これはもはやデザート。東京で一番旨いプリンです。

はあ(ため息)……めくるめく鮨さいとうワールドが今宵も終わってしまいました。なんとも切ないです。儚いです。口惜しいです。
次の予約は半年後。辛いことや嫌なこともあるかもしれません。でも、おれ一生懸命頑張ります。努力します。研鑽をつみます。だってまた半年後のさいとうさんの鮨を食いたいもの。

そんなポジティブ起動装置がぼくにとっての鮨さいとうなのです。